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鍼灸学校が乱立し、競争の激しくなる現状において鍼灸師の保険治療はどうなっていくのか?また、どのように
すれば取り扱いがスムーズにいくようになるのか?鍼灸の保険、同意書、社会全体から見た鍼灸師の地位
などについていろいろと語って頂きました。 インタビュアー/三宅修平

【長谷川栄一プロフィール】

1974愛知県日中友好協会・医療部会幹事として、中国江蘇省南京中医学院
との医療交流に尽力する。その間、愛知県鍼灸師会理事として、県内青年鍼灸師の活動の場である「青年サークル」を設立。一方、日本鍼灸師会・青年部会部
会長に就任。

1979
年北京中医薬大学、河南省人民医院、武漢医学院、上海中医薬大学
にて研修。

1981南京中医薬大学及び付属医院にて研修1983年南京中医薬大学、上海中医薬大学付属龍華医院
にて研修。
1990北辰会へ入会。藤本蓮風先生に師事し中医学を深める。

現職
:(社)日本鍼灸師会 常任理事、(社)愛知県鍼灸師会 副会長、
(社)愛知県鍼灸マッサージ師会 西支部長、(社)全日本鍼灸学会・愛知地方会 幹事、
中医学研究会「げんき会」代表、愛知県日中友好協会 理事



三宅

長谷川








現在の鍼灸の保険取り扱いの状況について教えて下さい。

平成16年8月、業界団体の努力によって、回数制限が改正され、
その取り扱いが大幅に緩和されました。その結果、鍼灸取扱
件数は飛躍的に伸びました。しかし一方、法人組織に属さない
個人や団体が、治療の必要性を無視した過剰な治療を行い、
保険者の不信感をつのらせています。「法人会員さんの請求は
信用できるが、その他の団体がねぇ」、というような言葉を保険者
さんからよく聞きます。

それに加えて、最近結審した「委任払い」の裁判において、「療養
費の原則償還払い」が再確認されたのですが、これに対し、法人
外の一部団体があたかも勝訴したかの如き文章を保険者に送付
した為、更に保険者の信頼を無くしてしまったのです。
私たちが
取り扱っている保険治療は、保険医療の中の「療養費」の範疇に
あり、支払いについては、「原則償還払い」はもとより、支払い
決定は「保険者裁量」に任せられています。法律で支払いが義務
づけられている「療養の給付」と、「療養費」とは、まったく違うもの
です。この「療養費」の取り扱いについては、保険者の理解と、
お互いの信頼関係に基づいてなされているのです。

しかしながら、
今お話ししたように、保険者の信頼をなくすような
動きが、法人に属さない団体においていくつも出てきています。
これらの動きを受け、最近、組合保険より、「鍼灸治療は、療養費
の原則である償還払いで行います。」という通知が相次いで出て
います。

この、一度なくした信頼をどう取り戻すか、業界団体では必死に
取り組んでいます。その一つが、一人でも多くの鍼灸師の方に
法人団体に加入してもらい、業団としての政治力を高めていく、
というものです。法人組織が力を付け、アウトロー的な団体がなく
ならない限り、鍼灸保険治療の将来は厳しいものがあるでしょう。













三宅

長谷川

























医師は鍼灸の同意書のことをどう思っていると思いますか?

そうですね、例えばあなたが医師になったつもりで、医師の立場で
考えてみて下さい。ある日、突然、患者が同意書を持ってやって
来ました。そして、鍼灸治療に同意をして欲しいと、さあ、あなたが
医師だったとしたら、どう対処しますか?

自分が一生懸命診療している患者さんに、どこの、どんな人間が、
どんな治療をするのか?そしてどんな衛生設備でやっているのか、
全く分からない鍼灸師の治療に同意しろと言われても、簡単には
同意出来ないんじゃぁないでしょうか。


そんな医師の戸惑いに対し、少しでも理解をしていただければと、
若い頃は同意をいただいた先生に治療報告書を出したり、盆暮れ
には必ず挨拶に行ったりしていました。さっきも言ったようにどんな

人間が、どんな治療を、どんな衛生設備でやっているか?という
のがわからないことには、医師にとっても、安心して同意は出来
ないのではないでしょうか。

だから、「私はこういう人間です。」と、盆暮れに顔を見せに行く。
また、「こんな治療をしています。」と治療報告書を送る。このように
して、少しずつ医師の信頼を得るように努力してきました。


これらは鍼灸師個々で行う努力ですが、同意書問題をよりスムース
に行う為には、個々の努力と、組織的な努力の2つが相まって初めて
進展するのです。組織的には、愛知県では、愛知県医師会と愛知県
鍼灸マッサージ師会、愛知県鍼灸師会、愛知県マッサージ師会とが
友好団体となっており、組織的な信頼関係のもとに、また個々の
医師のご理解の上に、同意書発行は適正に行われています。


三宅
治療報告というと東洋医学的な報告ですか?

長谷川




そこが難しかったんです。出来るだけドクターに読んでもらえるように、
また、ドクターの信頼を得るような報告書は、どう書けば良いのか。
報告書の書き方一つで、ドクターの信頼を得る事も、またなくす事
にもなりかねません。

三宅 ドクターにも分かりやすいように西洋医学的な書き方での報告は
しなかったのですか?


長谷川

両方してましたよ。西洋医学的な書き方と、東洋医学的な書き方で
出していました。時には一晩がかりで書いた事もありました。

それからいいことが分かったんです。というのは、変形性顎関節症
の人がいて、これは鍼だけではダメなので、口腔外科で治療をしな
がら鍼もやりましょうということで病院へ送ったんです。そうしたら、
病院の口腔外科から、手紙をいただいたんです。「最近、変形性
顎関節症からくる肩凝りや、頭痛などが非常に増加しています。
肩こり、頭痛、胃腸障害などの患者さんがおみえになったら、変形
性顎関節症も疑ってみて下さい。」という文章が、学会資料とともに
送られてきました。


それ以来、これはいいなと思い学会誌の中から腰痛なら腰痛の
治療が
掲載されているページをコピーして、報告書に加えて「これに
準じた治療をしています。」と、そのコピーした文書をつけて送った
ところ。ドクターは読んでくれました。というのは、個人のもの、まして
や鍼灸師が書いたものではあまり信用ができないのでしょうね。
でも、学会誌に出ているということで信用されるんです。



三宅

長谷川




三宅

長谷川

三宅

長谷川
鍼灸の先生たちの保険の取り扱い方はどうですか?

愛知県鍼灸師会では会員の方々のレセプトをチェックして、適正に
保険の取り扱いをするように徹底して指導を行っています。ですから
私たち法人の会員さんの取り扱い状況はいいですよ。
保険者さん
からも信頼されています。


それはいい傾向ですね。

ところで三宅君が理想とする鍼灸師はどんなもの?

仕事を通して社会的に尊敬されるようになりたいと思っていますが。

よく鍼灸師は社会的評価が低いといわれますが、でもこれは間違って
いると思います。僕は、鍼灸師は社会から正当な評価を受けている
と思っています。

社会的評価が低いのではなく、実際に鍼灸師のレベルが低い訳
ですから、妥当な評価をされているという事です。逆に言うと、世間が
望んでいる鍼灸師はもっとレベルの高い鍼灸師なのです。

それに、応えていないのが、今の鍼灸師です。普通のサラリーマン
並みの努力さえ、鍼灸師はしていないんです。学校を出てからの
勉強量があまりにも少ないんです。



三宅

長谷川




三宅
どうすれば鍼灸師のへの理解が今より深まると思いますか?

やっぱり大学制度にならないとダメでしょうね。専門学校じゃダメ
だと思います。学校を卒業して5年後に、業界に残っている卒業生
が5割って言うでしょ。先月ある鍼灸学校の先生に聞いたんですが、
残っているのは3割と言う人もいます。


それだけ厳しいということですね。
長谷川









ただし、僕は、ある意味歓迎しています。ダメな人は落ちていく。
そして残る人は残ります。業界の現状を見ても、一昨年の夏頃から、
しっかりとした治療をしている鍼灸院は、患者数が徐々に伸びて
きています。私の知っている範囲でも、しっかり治療をしている
治療院は皆同じような時期から伸びてきているんですよ。逆に
勉強もしていない治療院はどんどん患者数が落ち込んできて
います。患者の治療院を選択する目がこえてきたのでしょうかね。

ドクターは鍼灸は認めているんです。でも鍼灸師は認められない
というのが現状なんです。


三宅 どうしてドクターは鍼灸師を認めてくれないのですか?

長谷川




レベルが低いからです。例えば腰痛の患者さんが来た時、内科
疾患、或いは婦人科疾患が隠れていないかどうか、その鑑別が
出来るかどうかという事なんです。現状では、出来ない鍼灸師の
方が多いと思います。

三宅 だからなかなか保険の状況も変わらないのかもしれませんね。
先生は鍼灸の保険はどういった状況が理想だと思われますか?


長谷川

やっぱりレベルが上がって鑑別能力がついた時点で保険は変わる
と思います。鍼灸学校が大学制になれば一番良いのですが、他に
は、鍼灸師の認定制度も一つの方法かもしれません。ある一定の
講習を受け、試験を行い、合格した者だけに保険を取り扱う資格を
認定し与える。そして、その資格は更新制にする。但し、これにも
メリットとデメリットがあるので、慎重に扱う問題だと思います。


三宅 今後保険はどういう風に変わるのが一番いいと思いますか?

長谷川

同意書の撤廃は困難なので、今より簡略化するのが良いのでは
ないかと思います。簡略化すれば今より取り扱いやすくなる部分も
出来るかもしれません。


但し、厚労省と交渉して簡略化をしてもらうには、その担保となる
何かが必要となってきます。それが、今、お話しした、大学制であり、
認定制度です。



三宅

長谷川

保険は今後どうなっていくと思われますか?

鍼灸師次第です。自分の利益のみを求めるのではなく、社会の為、
国民の為、医療の為、鍼灸の為、という、もっと次元の高い目標に
向かって、努力すれば、必ず結果はついてくると思います。確かに
お金はあった方がいい、ただ、お金は結果としてついてくるもので
あって、金儲けが目的であってはいけないと考えています。国民の
期待に応える治療を続けていけば、お金も入ってくるでしょうし、保険
も、もっと良い方向に向かっていくと思います。


三宅 昔のように戻る可能性はありませんか?

長谷川

はっきりとしたことは分かりません。鍼灸師の個々の努力と、組織
としての団結があれば、戻る事は決してありません。

ただし、鍼灸師が、個々の利益のみを求めたり、法人以外の団体の
勝手な行動が続けば、療養費の原則である償還払いに戻る可能性は
大いにあると思います。儲かるからといって、往療距離を伸ばす事
ばかりを考えたり、患者が来るからといってむやみに治療回数を増やしたり、適正に保険を取り扱わないケースが増えてくれば、各保険者の
信頼を失い、療養費の原則である「償還払い」になってしまう可能性は
高くなります。

現実的に、そのような金儲け主義の考えから、社団法人を退会し、
別団体で保険請求をする人が増えています。この傾向が続く限り、
今より良い方向へは行きません。

実際、償還払いに切り替えてくる保険者が増加しているのが現実です。

三宅


長谷川
それは保険行政自体が赤字ということではなく、保険の取り扱い方の
問題ということですか?

保険者の財政が苦しいのは事実です。ですから、療養費の見直しも
一部保険者では行われています。その中で、好ましくない取り扱いが
あれば、不支給となるのは、当然の事です。


例えば三宅君のお母さんが実費で鍼灸治療を受けているとします。
そして、その治療費を全額、三宅君が負担するとします。それほど
痛くもないのに、気持ちがいいからと、1ヶ月に10回以上も治療に
行くとなると、結構な金額になりますよね。そうなると、もうちょっと
回数を減らすことは出来ないか?、と思うでしょ。保険者も同じです 。



三宅

長谷川

三宅

長谷川

三宅
同意書をもらいやすくするための工夫は何かされていますか?

先ほど述べたとおりです。

学会の資料等の添付ですか?

今はもう信頼関係が出来ているので挨拶だけです。

これから新規で開業する鍼灸師さんはどうすればいいですか?

長谷川





まず近隣のドクターへの挨拶ですね。うちの従業員が開業する時にも
近くの病医院には必ず挨拶に行くよう、言っています。出来れば自分
の所のホームページを作ったらプリントアウトして治療内容はこんな
感じで、治療室はこのようにしてやっていますと説明するのがいいと
指導しています。

三宅

開業してドクターの所に行くわけですが、鍼灸に興味のない先生も
いると思うのですが、そういった場合はどうすべきですか?

長谷川 もちろんそういう先生もいます。でもまずは治療のことよりも、こういう
人間がやっていますと挨拶に行って、衛生設備は気をつけていますと

いう事を言えばいいんです。ドクターは衛生面を一番気にしますから。

三宅

長谷川
挨拶に行くと受け入れてくれますか?

行く時間も考えて行く方がいいですね。僕が挨拶に行くと「いつも
うちの患者がお世話になっています」と言われるんですね。ドクター
にしてみれば自分の患者を僕に委託しているという意識なんですね。
そこはちゃんと認識しておかないといけないと思います。

ですから、何かあった時には、ますドクターの診察を受けるように
患者さんに指示すると同時に、ドクターにも連絡を取って、状況説明と、診察依頼をしておきます。

ただ、状況説明の仕方によっては、医師の信頼を得る事もあれば、
信頼をなくす事もあります。医師が納得のいく説明が出来るよう普段
から勉強しておかないといけませんね。


三宅

長谷川




なるほど。鍼灸師はもっともっと色々な事を勉強しないとダメですね。

治療院経営で、一番大切な事は、まずは治療。他の治療院で治せ
ない病気を治す。これは当然といえば、当然の事ですが、案外忘れ
られている先生が多いようですね。

どうすれば患者さんが来るだろうか。治療室を豪華にするといいの
だろうか。宣伝をすればいいのだろうか、と色々と考えてみえるよう
ですが、それよりもまずキチンと治すこと。治せなければ治療院では
ありませんから。後は、人間性と経営術ですね。


三宅 どうすれば人間性が高まると思いますか?

長谷川 やっぱり色んな人と会う事、色んな本を読む事ですね。

三宅

長谷川


先生は今後、どんな業界になって欲しいと思われますか?

やっぱりさっき言った大学制ですね。そして、みんなが鍼灸学士を
取るようになれば自ずと業界も変わっていくと思います。


三宅 変わると言うと?

長谷川

社会的な評価、保険の取り扱い、その他、様々な事が大きく変わって
くると思います。

鍼灸師がすべて大学を卒業し、鍼灸学士を取得すれば、今より以上に
様々な疾患に対する治療効果を上げる事が可能となるでしょう。また
医師の信頼を得る事も、国民の期待に応える事も出来るようになると
思います。また、鑑別診断も可能となり、保険取り扱いについても大き
く変わってくるもの
と考えています。

要するに鍼灸師が技術的にも、組織的にもレベルアップを果たした時
国民の信頼も、医師の信頼も、保険者の信頼も、行政の信頼も得る
事が可能となり、すべての事項が大きく変わってくるものと思って
います。

三宅 よく分かりました。ありがとうございました。


【編集後記】
とにかく鍼灸師のことを一生懸命に考えて下さっている先生でした。お話を伺っていて私自身まだまだ
勉強不足、努力不足を痛感しました。長谷川先生は、ご自身の鍼灸院以外に鍼灸師会のことで色々と
活動をしておられます。自分のことだけではなく、周りの事を本気で考えるというのはこういうことだなと
実感しました。私ももっと貢献出来るように努力したいと改めて思いました。

責任編集/三宅修平

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